第3話 『侵入』~サザンクロス~ 第1部 『SHIN』 第3話 『侵入』 「何という美しい街並みだ・・・」 さらわれた妹アイリを捜す旅の途中でサザンクロスを訪れたレイは その美しい街並みを見て素直にそう表現した。 小高い丘の上に立つレイの眼下に広がる美しい都市サザンクロス。 周りはしっかりとした城壁に囲まれ、武装都市の様相を呈しているが 都市部は豊富な緑と整然と並んだ建造物・・・ およそこの時代では考えられない程の景観だった。 もちろん、正面からの侵入が困難な事は容易に予想がつく。 レイは夜を待って忍び込む事にした。 「アイリ、頼む、この街にいてくれ・・・」 夜になり、レイはサザンクロスに忍び込んだ。 レイほどの拳士なら正面突破もたやすいはずなのだが、 バーテンの言った謎の拳士『KING』の存在が気になったのだ。 おそらくKINGとは拳を交える事になるだろう。 だからこそ、それまでの無用な戦いは避けたかったのである。 しかし、いくら夜とはいえ、これだけの規模の都市で見回りの兵がいない訳がなかった。・・・ 「うおぉぉー!キサマは何者だぁ~??こらぁぁぁ!!」 いかにも凶暴そうな大男が立ちはだかる。 レイは表情も変えずに兵士に向かって歩き続けた。 兵士は一瞬『何か』の衝撃を感じたかと思うと、レイの姿が視界から消えた。 「あ?あれ? どこへ行きやがった!?」 レイはすでに兵士を通り過ぎ、背を向けて歩いていた。 兵士はあわてて振り向いた。 「お、おい!キサマどこへ行く?! 侵入者に命はないぞぉぉ!!」 「フッ、すまんな。キサマを殺さんと先に進めんのでな。」 レイが少し振り返って言った。 「な、何言ってやがる!死ぬのはキサ・・・」 ビシッ!ビシッ!! 兵士が叫び終わる前に、その顔に亀裂が入った。 いや、亀裂は全身に及んでいた・・・ 「ギャァァァ~!!」 兵士は断末魔の叫びと共に肉塊となって地面に崩れ落ちた。 レイの使った拳法は南斗水鳥拳・・・ 外見は水面に浮かぶ水鳥のように優雅、華麗であるが その威力は外見とは裏腹に残虐非道な殺人拳である。 レイは闇から闇へ、慎重に先へ進んで行った。 しかしそれでも何人かの兵士と遭遇した。 その厳戒な警備にレイは驚かざるを得なかった。 「一体この街には何があるというのだ・・・」 だが、その厳戒な警備もレイの前では意味がなかった。 兵士はレイの動きが全く見えなかった。いや、動いている事がわからない程だった。 気がつく前に、レイの手によって切り刻まれていたのであった。 「おそらく、あの塔にKINGがいるはずだ・・・」 レイは街の中でもひときわ高い塔を目指して進んで行った・・・ 「それ以上先に進まれたら困るのだよ!」 その声はレイの背後から突然聞こえた。 今までの兵士とは明らかに違った雰囲気の声だった。 レイが振り返ると、屈強そうな男と多数の兵がいた。 (これだけの数に背後をとられて気付かんとは・・・ こいつらは今までの兵士とは明らかに違う。) 気を引き締め直したレイは、その男に語りかけた。 「俺も行く手を塞がれては困るのだ。先を急ぐのでな。」 「フッ、そのようだな。これだけの警備の中、ここまで来れた男だ。タダ者ではあるまい! しかし!KING四天王の一人、ギースに見つかってしまったのが運の尽きだ!!」 ギースは厳しい表情で話した。 しかしレイは笑みを浮かべながら挑発した・・・ 「ごたくはいいから、さっさとかかってこい!!」 「うぬぬぬ!容赦はせぬぞ!! 烈風拳!!!」 そう叫んだギースが腕を振り上げた。 すると凄まじい衝撃波が地を這い、レイへと襲いかかった。 紙一重でかわすレイ。 そして、 「こんな子供だましで俺を倒せると思っているのか?」 見下すように吐き捨てた。 「なんだとぉ~ ならば微塵に砕いてやるわっ!」 ギースはさらに何度も手を振り上げた。 今度は何本もの衝撃波がレイに向かって行ったが、全く当たらない。 全てを避けて構えを解いたレイが言った・・・ 「もう見飽きたので今度はこちらから攻めさせてもらうぞ。」 そう言うとレイは構え直した。先程とは明らかに違う攻撃の構えだ。 ギースも気を引き締めて構え直した。 そこに・・・ 「それまでだ!!」 男の声が響いた。 2人の視線が声の方へ向いた。 カーネルだった。 「カーネル! 邪魔をするな!!」 ギースは苛立ちながら叫んだ。 しかしカーネルは首を横に振った。 「ギースよ、お前ではその男に勝てない。 ここにいる兵士全員が束になっても勝てないだろう。」 「何ぃ? ならばカーネル、お前なら勝てるというのか?」 「もちろん俺でも勝てない・・・ なぜならその男は南斗六聖拳の1人、南斗水鳥拳の伝承者なのだ!!」 「な?何だと?? 南斗六聖拳だと・・・?」 ギースは、いや、そこにいた兵士全員が驚いた。 この世紀末の荒れた時代に、最強の拳法と恐れられている北斗神拳と南斗聖拳。 北斗は一子相伝だが南斗は総勢108派。 南斗108派の頂点に君臨するのが南斗六聖拳。南斗最強の6人・・・ その中の1人が目の前に立っており、自分達と戦おうとしていたのだ。 充分に驚くに値する事なのである。 中には胸をなでおろす兵もいた。 「わかった・・・カーネル、この男はお前に任せる・・・」 絞り出すような声でギースはつぶやいた。 「余計な口出しをしてすまんな・・・」 カーネルはギースの肩を軽く叩きながら言った。 そして・・・ 「レイ様、KING様がお待ちかねでございます。」 レイに対して頭を下げて言った。 「KINGが?俺を?!」 レイは驚きを隠せなかった。 「はい。私がご案内致します。こちらへどうぞ。」 カーネルはレイを連れてKINGのいる塔へ向かった。 「カーネルと言ったな。俺の事を知っているのか?」 カーネルの背後からレイが尋ねた。 「はい。南斗水鳥拳・・・ その華麗な舞と恐るべき破壊力にはいつも感服しておりました。」 立ち止まらずにカーネルは答えた。 「ほぉ、ならばお前も南斗一派なのか?」 「南斗無音拳を使います。 そして私の主も・・・」 「KINGも南斗の者か??」 レイはカーネルの言葉をさえぎって聞いた。 「はい。あなたと同じ南斗六聖拳の拳士でございます・・・」 「何だと?!」 レイの足が止まった。 「KING様の正体は・・・シン様です。」 「シンが・・・KING?」 明らかにレイの表情はこわばっていた。 「アイリをさらったかもしれない男が・・・ 南斗弧鷲拳の、いや、南斗聖拳のシン・・・」 レイはしばらく立ち止まり、塔を見つめ続けた。 南斗聖拳108派の中で南斗弧鷲拳は南斗宗家に近い存在の拳法であり 南斗創始初期から既に完成された拳法であった。 世間では一般的に弧鷲拳を南斗聖拳と呼んでいる。 それは何故か? 弧鷲拳は南斗の主な攻撃である、突・斬・蹴を全て極めており 南斗のほとんどの流派は弧鷲拳を基礎として出来上がった物である。 六聖拳とて例外ではない。 弧鷲拳をベースにして、切り裂く技を強調させたのが水鳥拳、 スピードを追求したのが紅鶴拳、足技を多彩にしたのが白鷺拳、 そして、同じく宗家に近い流派で南斗最強として別格に扱われている 一子相伝の鳳凰拳でさえ、弧鷲拳の攻撃面を強調させた拳法だという説がある。 つまり弧鷲拳は南斗108派全ての要素を兼ね備えているといっても過言ではなく、 世間から南斗聖拳と称されるゆえんなのである。 無論、各流派からも一目置かれる存在なのだ。 「シンがこんな都市を・・・」 しばらく黙っていたレイがやっと口を開いた。 「驚かれたようですね、レイ様。さぁ参りましょうか。」 2人は再びKINGの元へと歩き出した。 「このような武装都市を作っているという事は シンはやはり覇権を目指しているのか?」 「それはKING様にお聞きください。」 混乱の時代となり、南斗六聖拳は平和派と覇権派の2つに割れた。 レイは平和派、シンは覇権派だったのだ。 そしてユダの裏切りもあり南斗六聖拳は崩壊した・・・ それからの短期間でここまでの勢力を手に入れているシンに対し 改めて南斗聖拳の凄みを感じるレイであった・・・ 「到着しました。この部屋にKING様がおられます。」 レイは扉をじっと見つめた・・・ カーネルが扉に手を伸ばす。 「失礼致します。レイ様がご到着です。」 そして、扉が開かれた・・・・ 第3話 完 |